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アートをケータイする──美術館とポッドキャストのいい関係
光岡寿郎
 1980年代、ウォークマンの発売とともに私達は「音楽」を「ケータイ」するようになり、家庭で紅茶やお酒を片手にじっと音楽を消費する形態は大きく変容していった。そして2000年代、iPodの発売とその機能の拡張によって、私たちは「アート」を「ケータイ」しつつある。

アートにおける新たなモビリティ
iPod持参で展覧会を聞く来館者
iPod持参で展覧会を聞く来館者
 東京都現代美術館は、昨年12月に「Mot the Radio」、年が明けて1月末から「Mot the Guide」という2つのポッドキャストサービスを開始した。ポッドキャストとは、インターネットを通じた音声ファイルの配信システムのことで、iPodなどの携帯端末を通じて、ダウンロードしたオーディオファイルを楽しめる。美術館のラジオ配信は、ニューヨークのP.S.1をはじめとした海外の美術館で先行していたが、同館は日本初の美術館ラジオを謳い文句にこのサービスを採用し、同館の展覧会情報やアートシーンで活躍する人々の声を提供する。一方、後者では、従来私たちが展覧会場で借りていた音声ガイドを、事前にポッドキャストを通して自分のiPodに「ケータイ」し会場へと向うことができる。こちらは、iPodという新たなメディアの可能性に刺激を受けた学芸スタッフからの働きかけで実現したサービスだという。サービスの評判は上々で、いままで美術館には関心のなかった層も、ポッドキャストの一覧情報が掲載されたウェブサイトで偶然に『Mot the Radio』を発見し、ラジオを通じて展覧会の情報を知り館に実際に足を運ぶなど、新しい美術館のコミュニケーションチャネルになりつつある*1
 この東京都現代美術館での取り組みは、アートのモビリティの新たなフェイズへの移行を示唆していないだろうか。というのも、もともと美術館は、アートが「ケータイ」できることに支えられたメディアだからだ。はるか昔、アートは「ケータイ不可能」であった。フレスコ画や襖絵は、壁やドアそのものであるし、多くの彫刻は宗教的建造物(寺院、神殿)と不可分な状態にあったからだ。ゆえに、絵画がキャンバスというメディアに、彫刻がユニット化された石材や木材というメディアに依存することで初めて、アートの可動性が生じ、「一箇所にコレクションする≒美術館」ことが可能になったと言える。
 1990年代の美術館のデジタル技術への取り組みは、このモビリティに新しい側面を付加した。それはアートの「モノ」としての価値と「情報」としての価値の分離である。美術館における初期のデジタル技術の導入は、コレクションのデジタルアーカイブ化と、書誌情報のデジタル化に重心がおかれてきた。この作業は、「モノ」であるアートに従属すると考えられてきた「作品がともなう情報」が、「作品=モノ」を離れて扱えるという事実を強く意識させるようになった。「Mot the Guide」のように作品解説という「モノの情報」を独立して提供するという美術館の取り組みは、この新しいモビリティへの着目を反映している。この観点を共有しているのが、4月に国立西洋美術館が発表した「ウエル.com美術館プロジェクト」である。
 この国立西洋美術館の取り組みも、同館のデジタルアーカイブを基礎としている。その特徴のひとつは、Uコードの利用だ。Uコードは、東京大学大学院の坂村健教授を中心に開発されたユビキタスネットワークであり、コードがすべての「モノ」に1対1対応で付されるため、どの美術館の作品が、どこにあろうが、その情報を瞬時に把握することが可能になる。また、展覧会場では、付随情報として各作品に対する複数の解説が付されており、来場者は、ユビキタスコミュニケータという携帯端末を利用して、好きな解説を好きな言語で楽しめる。さらに、アーカイブを3Dデジタルアーカイブ化しているため、同様にこの端末を利用して通常では鑑賞することのできない視点から作品を楽しむこともできる。今後、このアーカイブを利用した作品のオン・デマンド印刷のサービスも予定しており、この徹底した「作品情報」の利用は、ミュージアムをコンテンツ産業の一員へと迎えいれようとしている。なお、同サービスの4月29日(土)〜5月7日(日)に開催されるトライアルのレポートは次回以降参照いただきたい。

「モノとしてのアート」の役割
 以上のように情報としてのモビリティを得た「アート」は、「ポッドキャスト」といい関係を築いている。しかし一方で、アートの愛好家は時に保守的に映るぐらいに「作品(=モノ)の手触り」に執着する。「テクスチャー」や「質感」といった「モノ」そのものの強さすら、感覚器官で受容されれば最終的には電子信号に還元されてしまうにも関わらずである。ゆえに、「情報としてケータイされるアート」の「モノとしてのアート」との距離感を見定めること、それは公的な美術館のサービスであれ、私企業のビジネスであれ、今後私たちが、「アート」を「ケータイ」することを習慣化していくうえでの課題になるだろう。

*1:ただし、音声ガイドが提供されない展覧会もあるため、ご利用の際には 東京都現代美術館のウェブサイトを事前にご確認いただきたい。

ウェル.com美術館プロジェクト 体験レポート
 artscape5月2日号で紹介した、国立西洋美術館の「ウエル.com美術館プロジェクト」の「映像ガイド」サービスがGW中(4月29日〜5月7日)に行なわれた。
 今回は、同館で開催中の「ロダンとカリエール」展に合わせ、前庭に展示されているロダンの彫刻作品が対象とされた。携帯端末であるユビキタスコミュニケータは、操作方法がタッチパネル方式なので総じて使いやすいのだが、まだいくつかの技術的な問題を抱えているように思う。その最たるものは、タッチパネル液晶が暗く、屋外利用の際には映像が見えにくい点だ。結局、映像によっては音声ガイドとして使わざるを得ないものもあった。
 一方で、もう少し本質的な問題となるのは、音声ガイドと違い、映像ガイドの場合には来館者の鑑賞行為を分断してしまうという点だ。このガイドは、首にぶら下げて利用するものだが、映像ガイドを利用しながら作品と対面すると、どうしても正面の作品と手許のガイドを交互に見てしまうために、じっくりと作品と対面することが難しくなってしまう。必ずしも作品に没入すべきだとは思わないが、やはり、映像ガイドのなかで作品との対面を滑らかにつなぐストーリーを用意することが求められるだろう。次回、秋のトライアルでの改善を待ちたい(モネの作品が対象、時期未定)。
ウェル.com美術館プロジェクト ウェル.com美術館プロジェクト
左:中庭の鑑賞者
右:ユビキタスコミュニケーター

[ みつおか としろう/博物館研究・メディア論 ]
前号
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